世界90ヶ国が加盟するユネスコの民間団体であるITI/UNESCO・公益社団法人国際演劇協会
日本センターは、「国際演劇年鑑」特集企画として「紛争地域から生まれた演劇」シリーズを14 年に渡り行ってきた。その中で2010年の「アラブの春」をきっかけに始まった内戦の続くシリア で、アサド政権を批判し亡命せざるを得なくなった作家、テレビ・映画の脚本家、劇作家、詩人 アドナーン・アルアウダの戯曲『ハイル・ターイハ』を2017年に翻訳・リーディング上演で紹介し た。今回、「紛争地域から生まれた演劇」シリーズ開始15年目を迎え、東京以外の地で本シリ ーズの全国展開版として「アートキャラバン2」(地域連携型)の主旨に添い、現地劇団、俳優と の共同製作、現地滞在製作を実施する。
「土着の根深い因習と近代化してゆく社会、厳しい自然に翻弄されながらも強い意志で同調圧
力を破り、人生を切り開こうとする母娘二代を描いた作品」(中山豊子/『紛争地域から生まれ た演劇・戯曲集』作品解題より引用)
娘の名はハイル(馬)、母の名はターイハ(さすらい)。ベドウィン族とクルドの間に生まれたハイ
ルが因習と現代的生活のはざまで揺れながら成長し、女性として自立する姿を、音楽や詩を ふんだんに用いて描く語り物。多様性の中に「シリア」のアイデンティティを探る作家の真骨頂。 クルド語交じりのアラビア語で書かれ、2008年出版。2015年にはパレスチナのイエス・シアター によりアラブ演劇祭(※)で初演され、カースィミー賞を受賞した。
作家、台本作家、劇作家、詩人。1975年、ラッカ県(シリア北部)から50qほどの小さなザウ
ル・シャマル村出身、高校卒業後ダマスカスへ上京。ダマスカス高等演劇芸術学院文学部ジャ ーナリズム学科パフォーミング・アーツ、ダマスカス大学でジャーナリズムを学ぶ。2011年3月、 ダマスカスで行われたアーティスト、作家、ジャーナリストらによるデモに参加して捕らえられ、 アサド政権支持を表明するように要請された。これを逃れるため国を出る。
戯曲作品に『ハイル・ターイハ』(2015年1月、第7回アラブ演劇祭でシャルジャ首長の名を冠し
た「アル・カーシム賞」を受賞)、『Zabib(レーズン)』、『Al-mirwad wa almikhaleh(マスカラとアイ ライナーの容器)』、テレビドラマの脚本に『Finjan Al Dam(血のカップ)』、『Abwab Al Ghayam (雲の扉)』、詩のアンソロジーに『Sakran El-Majanine(狂った酔っ払い)』等、ドキュメンタリー 映画に『Kalam harem(禁断の言葉)』。シリアの人気ミュージシャンLena Chamamyan(レーナ・ シャマーミャン)の作詞も行う。
国連教育科学文化機関ユネスコ傘下のNGO国際演劇協会(International Theatre Institute=
ITI)は、「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かな ければならない」という前文ではじまるユネスコ憲章の趣旨に基づき、舞台芸術に関する情報 交換と実践面での国際交流の促進を目的に、第二次世界大戦終結から3年後の1948年に創 設されました。
ITI創設から3年後の1951年、ITI日本センターが設立。以来70年以上にわたって、各国相互の
理解を深めるため、さまざまな事業を行っています。初代会長の橋誠一郎(元文部大臣・初 代国立劇場会長)から、北條秀司(劇作家)、内村直也(劇作家)、坂本朝一(元NHK会長)、永 山武臣(松竹会長)へと受け継がれ、現在、第6代会長を永井多恵子(せたがや文化財団理事 長・元NHK副会長)が務めています。
ITI日本センターは千駄ヶ谷の国立能楽堂内に事務局を有します。
毎年、国際演劇協会日本センターが発行する「国際演劇年鑑」の特集企画として「紛争地域か
ら生まれた演劇」シリーズを実施。最前線のテーマを扱ったパレスチナ、シリア、イラン、ヨルダ ン、イスラエル、パキスタン、フィリピン、タイ、アルジェリア、カメルーン、ナイジェリア、アメリ カ、カナダ、ドイツなどの海外戯曲30作品を14年にわたってリーディングやトーク、戯曲集の発 行で紹介してきた。当シリーズは、世界各地で生起する様々な紛争に目を向け、同時代の政 治的・文化的状況に対して新たな視座を提示している。これにより、演劇の持つ問題提起力を 社会に示すとともに、演劇に関する調査研究と創作現場との連携協働を実現している。当企 画で紹介した作品の中には、大小様々な劇団・劇場で舞台化されたものも少なくなく、その中 には、小田島雄志・翻訳戯曲賞を受賞したものも2作ある。
は、文化庁「統括団体によるアートキャラバン2事業(コロナ禍からの文化活動の再興支援事
業)」(地域連携型)の一環として、全国30都道府県で開催されます。コロナ禍で危機に瀕する 地域の文化芸術活動の再起とその継続を目指し、全国の公立文化施設から地域に向けて、 舞台芸術の魅力を発信していきます。 さあ、「劇場へ行こう!!」 |