ITI 紛争地域から生まれた演劇4

C4資料2

『Destination』作品紹介

「Destination」は、政変や政治活動による傷を負った3人の登場人物がタイの近代化を象徴す
るバンコクの都市交通・スカイトレインに乗り合わせ互いの心の傷や深層心理が浮き彫りにさ
れていくという話です。

劇団マカムポンの創立30周年を記念して創られた作品で登場人物も、過去の作品からもって
きているのでオリジナルを知っているかどうかで、理解の度合いが違ってくるように思います。
もちろん、「Destination」だけでも十分完成している作品ではありますが。


Destanation 登場人物
■へーン
女。78歳、メコン川沿いで商いをしていた華僑の娘。1932年の政変の後、夫スオイとともにバ
ンコクに移り住む。息子を授かり、二人目の子供である長女の妊娠中に夫がインドシナ戦争に
徴兵される。
二人の子供を教育するために、スオイは田畑を売り払い、市中でゴミ拾いをして稼ぐ。夫が戦
争から戻った時、息子は1973年の民主化運動に参加していた。そして、1976年の学生運動の
血の粛清で、二人の子供を失ってしまう。息子はタイ共産党に加わり、娘は行方不明になって
しまったのである。夫は、娘は粛清の中で死んだことを告げるが、それはへーンの夫への信頼
を揺るがすことになる。過去を振り切ることが出来ず、亡霊に付きまとわれているへーンは、娘
を探し続ける。

今日、へーンは初めてスカイトレインに乗り込んだ。
なぜなら、ここはただ一か所、まだ娘を探していない場所だからだ。

**へーンは「スオイ・タロードソック」(1998年)の登場人物。

■コムキィアオ
女。47歳、バンコクの工場に就職して農村から出てきた。Songs for life(メッセージ性の強いフ
ォークやロックミュージック)の歌手と恋に落ち、結婚し、夫に伴いあらゆる政治集会に参加す
るようになる。1992年のラジャダムノン通りの軍による弾圧に遭い、夫は信念を失い、すべて
の民主化活動に背を向けてしまう。コムキィアオは夫の存在を否定し、一人娘を唯一の希望に
して暮らしすようになる。

今日、コムキィアオは歌謡コンクールに出場する一人娘の応援に行くためにスカイトレインに
乗り込んだ。

**コムキィアオは「ムアン・ホーモック」(2006年)の登場人物。

■ラムケン
男。50歳、スラウォン通りにある小さなホテルの経理係だった。2005年〜2009年の政情不安の
煽りを受け続け、遂にホテルは倒産し、ラムケンは失業中である。しかし、高校生の娘に失業
の事実を知られないように毎日家を出て、スカイトレインに乗っている。なぜなら、失業がわか
ると、別れた妻に娘の親権を取られてしまうに違いないからだ。

**ラムケンはマカムポンの作品ではなく2010年のタイ映画「Bangkok Traffic Love Story」の主
人公をパロディ化して創った新しい登場人物。



作家紹介:プラディット・プラサートーン(トゥア)
1960年4月18日生まれ、バンコク。
タマサート大学(バンコク) 社会学・人類学卒業。
タイ伝統歌唱:歌唱、詠唱、伝統的な詩の吟唱法( 1975-1985)、タイ伝統音楽:ソードゥアン(2弦
のタイ式胡弓)、ジャケー(3弦の鰐琴)(1975-1980)、タイ古典舞踊:古典舞踊及びコーン(仮面舞
踊劇) (1979-1997)、リケエ:タイの大衆歌劇(1998-2005)、現代演劇:演出、劇作、演技(1980-現
在)。
劇団マカムポン芸術監督(1985-2010)、マカムポン財団事務局長(2005-2010)、バンコクシアタ
ーネットワーク事務局長(2002年より)、劇団アナタ芸術監督(2012年より)、バンコクシアターフェ
スティバル・フェスティバルディレクター。

地域演劇、社会変革のための演劇、発展のための青少年演劇、大衆演劇及びタイの歌劇リ
ケエ、伝統と現代を融合させた演劇などを、タイの大学や国際的な場で展開。
1998青少年のための最優秀プログラムディレクター 児童青少年協議会より
1999 最優秀舞台演劇アーティスト パトラワディ劇場より
2000アジア太平洋パフォーマンス交流奨学金(Asian Pacific Performance Exchange
Fellowship (APPEX)), カリフォルニア大学ロスアンジェルス校( University of California Los
Angeles(UCLA))より
2003 優秀社会企業家 (ASHOGA Fellow) ASHOGA, Thailand-USAより
2004 米国文化訪問  Asian Cultural Council (A.C.C)より
2004 芸術大賞(最優秀現代芸術家)  文化省より
2004 最優秀卒業生 タマサート大学より
2010 栄誉市民 ゴーモン・ギムトーン財団より
2011-2012 日本財団国際フェローシップ, 日本財団より